高校野球 2006年夏 第88回選手権大会 作者のコメント

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大会史上最多の60本塁打が飛び交った今年の夏の甲子園。
大会は初日からいきなり大阪桐蔭VS横浜の東西横綱対決が実現するなど、
波乱の幕開けを予感させました。
試合は打撃戦が多かったですが、最後は最高の投手戦で締めくくられました。
大会後も各メディアで大きく取り上げられるなど、多くの方々にとって、
今年の大会は近年でもっとも印象に残るものだったはずです。

優勝した早稲田実 は斎藤投手の好投がまず第一です。名門の夏の甲子園初優勝投手に
ふさわしい堂々としたピッチングでした。
早稲田実は選抜で見たとき、それほど強いという印象はなく(斎藤投手も甘いコースにボールが
行くことが多かった)それほど期待していた学校ではありませんでした。
夏の西東京大会は強力な打線を持ち、近年では経験も豊富な日大三の方が圧倒的有利
だと思っていたほどです。
夏の予選から苦戦が続きましたが、これほど勝ち進むにつれたくましくなっていった
学校も珍しいです。
それにしても決勝の15回を投げ、次の日も先発して完投するのですから、
斎藤投手のスタミナ、精神力にはただただ驚くばかりです。
やはりなんといっても圧巻は大阪桐蔭・中田選手との対決で3三振を奪ったところで
しょうか。高めのストレートで三振を奪った場面などは本当に痛快でした。
また打線もいざをいうときにきちっと打つ勝負強さも際立っていました。
斎藤投手ばかり取り上げられがちですが、優勝の一番の要因はチームワークだと
さえ思うほどチームのまとまりも素晴らしかったです。
また、これも大事なことなのですが、彼らは試合中のマナーも非常に良かった。
多くの高校生にとって模範になるべき学校が優勝したというのはうれしいことです。

準優勝の駒大苫小牧 はやはり過去2年夏の甲子園を制覇した学校だけあり、強い学校
でした。特に決勝の9回1点差に迫る本塁打は、本当に彼らの執念の恐ろしささえ
感じるものでした。田中投手、今年は昨年ほどストレートには伸びが無かったようですが、
それでも速いし、非常に将来性豊かな楽しみな投手です。
昨年のようなストレートの速さがあったならば、もっとスライダー、フォークで
三振が取れていたかも知れませんね。
決勝での好投もすごかったですが、やはり準決勝の智弁和歌山戦でのピッチングは
まさに甲子園の神が乗り移ったと思えるほどでした。
ストレートは速い、スライダーが次々右打者のアウトロー、左打者の膝元に決まる、
フォークは落ちまくる、カーブもコントロール抜群、そして追い込んでからはワンバウンドに
なろうかというスライダーにフォーク。とにかく待っていたらあっという間に
追い込まれるといった感じでした。
しかもカウントを取りに行くボールも簡単に打てる球ではありませんでした。
最強の打線に対し、田中投手が最高のピッチングでねじ伏せた、というこの試合もまた歴史に
残る名勝負といえるでしょう。
この日の田中投手ならばおそらくプロの選手も打てなかったのではないでしょうか。
また今年の田中投手はスライダーの連投からかフォームを崩す場面が見られましたが、
香田監督がすかさずアドバイスしていました。監督と選手の信頼関係も
素晴らしいな、と思いました。
ひとまず駒大苫小牧の最強時代はひと段落ついたところですが、また彼らなら新しい
時代を築き上げると期待したいところです。

私が一番の優勝候補に挙げていた智弁和歌山 も、さすがに打力のすごいチームだけ
ありましたね。予想していたとおりに初戦では打線がおとなしかった印象でしたが、
2回戦の金沢戦、橋本選手のタイミングをはずされながらのセンターへの大飛球で、
今後の打線大爆発を予感し、現実になりました。
3回戦の八重山商工戦では本格派・大嶺投手を見事攻略。この試合を見ていて思った
のは、智弁和歌山にはどれだけ速くてもストレートは通用しない、ということでした。
そして準々決勝の帝京戦ではこれまた歴史に残る名勝負(大乱戦)。
見ている私もついつい興奮してしまったほどです。
準決勝では田中投手を攻略できませんでしたが、この大会、少し智弁和歌山にとって
スライダーを苦手としていましたかね。県岐阜商戦でもスライダーがなかなか
打てなかったようですし。しかし名将・高嶋監督のチームですから、今後その課題も
克服して、さらに隙のない打線でまた甲子園に戻ってくるのは間違いなさそうです。
私が期待するのはやはり、96年選抜の2年生エースだった高塚投手のような豪快な
本格派の登場ですね。この打線に高塚投手のような剛腕がいればまさに
鬼に金棒で、優勝もかなり期待できるはずです。

初出場、公立で堂々のベスト4入りを果たした鹿児島工 も素晴らしいチームでした。
ずば抜けた選手はいなかったものの、2回戦の高知商、ベスト8の福知山成美との
試合、接戦を切り抜けたのは初出場校とは思えない堂々としたものでした。
高知商戦で代打で出てきた今吉晃選手を見たときは面白い選手がいるものだ、
と思っていたものですが、彼は代打として甲子園で5割、鹿児島予選では8割以上の
打率を記録していたのですから、いかに1球にかける集中力が凄まじかったかが
わかります。彼も含め非常に個性的なチームで甲子園を盛り上げるには必要なチームだ、
と思いました。 また公立であり、グランドが狭いというハンデをもろともせず、これだけの
活躍を見せたのは多くの球児に勇気を与えたのは間違いありません。

山形勢として初のベスト8進出を決めた日大山形 も非常に良いチームでした。
少し試合運びの点で課題を残しましたが、試合の流れを変える大ファインプレーあり、
窮地に追い込まれてからの大逆転サヨナラあり、と頼もしいチームでした。
特に打線が強力で、今治西との壮絶な打撃戦はすごかったです。
以外だったのは彼らはほとんどが地元山形の選手だということです。
”山形はもはや弱小県ではない”という文章を読んでも、活躍しているのは主に他県から
きた選手が多かったので、今までピンと来なかったのですが、今回の彼らの活躍は
まさに山形の高校野球の歴史を変える第一歩と言っても良いのではないでしょうか。

豪快なバッティングに加え機動力もある帝京 でしたが、やはり打力は強力で勝ちに対する
執念もただならぬものがありました。特に智弁和歌山戦での9回8得点は本当に
とんでもないチームだ、と驚愕してしまいました。
9回裏は投げる投手がいなくなってしまい、四球連発で非常に悔いの残る結果に
なりましたが、あの場面、捕手は投手に低め、低めに投げろと強調していましたが、
なかなかあんな土壇場で思うようなピッチングをするのは難しいですよね。
投手が変わっても甘いと打たれる、低めは決まらない、とかなり苦しい投球でした。
むしろ俺たちは勝っているんだからもっと気楽に投げろ、とか大会が終わったらみんなで
海に泳ぎに行こう、などの緊張をほぐす言葉が欲しかったところです。
しかし今後も非常に楽しみなチームですね。縦じまの威圧感をもっとも感じさせる
チームであり、甲子園でまた力でねじ伏せる野球を見せてほしいところです。

前評判はあまり高くなかったものの地元・兵庫の東洋大姫路 もまとまりのある良い
チームでした。近年兵庫の夏の甲子園は連敗中で元気がなかったのですが、
見事にこれまでの鬱憤を晴らす活躍を見せてくれました。
駒大苫小牧・田中投手に対しても全然振りまけていなかった打撃は見事でした。
とにかく食らいつく、切れ味抜群のスライダー、フォークにもなんとか当てにいく
しぶとさで田中投手を苦しめました。また乾投手、飛石投手の左腕コンビも非常に
安定感がありました。
特に飛石投手の駒大苫小牧打線に対する攻めは見事でした。
適度に荒れて、変化球は低めに、直球を意図的に高めに投げるのも有効でした。
打者をイラつかせ、打ち気をそらす。非常に頭脳的なピッチングに思えました。
この投球術は強力打線を抑えるための良いモデルになるかも知れません。

福知山成美 はさすがに平安、京都外大西という強豪を破ったチームだけあって
勢いがあり、今年の大会でなければ十分優勝できたチームだと思いました。
京都勢にしては珍しく、エラーが多少出ても打って取り返せ、とばかりにいいところで
ヒットが出る勝負強さが見事でした。また主戦・サイドスローの駒谷投手ですが、
こんなすごい投手がいるチームがなぜ、京都大会ではダークホース程度の評価だったか
理解できないほど今年の京都は高レベルの争いだったようですね。
今大会の駒谷投手は強気で攻める投手のお手本のようなピッチングを披露しました。
彼のスライダー、シンカーはテレビで見ている限りどうやって打つのだ(特に右打者)、とさえ
思うほどでした。京都大会で強豪を次々ねじ伏せても決して燃え尽きることなく、
甲子園でもベスト8まで勝ち残ったチーム力は素晴らしかった。

私は大会前に駒大苫小牧、横浜、智弁和歌山、関西の4校が4強だろうという予想を
していました。実際、各メディアや新聞でも駒大苫小牧と横浜の評価が非常に高かった
です。

横浜大阪桐蔭 との初戦で負けるべくして負けたというような試合展開でした。
初回の3盗失敗に、2度の満塁のチャンスを引っ掛けたショートゴロ、スクイズ失敗の
いずれも併殺でつぶしてしまっては試合の流れを掴むことはできません。
1、2回以降横浜打線に怖さを感じなくなってしまったのは強敵相手の焦りもあったの
でしょうか。それほどコンパクトな振りには見えませんでした。
この試合、やはり打撃戦ということで、1点を堅く取りにいったのが裏目に出てしまった
ようです。この試合、初回の高濱選手のとてつもない右への打球で、
一体これは何点はいることやら、と思っていましたが、結果的には野球の怖さ、難しさ、
また面白さを感じた試合でした。
こういう展開で8回に豪快にたたみかけた大阪桐蔭もさすがという感じでした。
勝った大阪桐蔭も次の早稲田実戦で敗れてしまいましたが、横浜が勝って早稲田実との
試合になっていたなら、横浜のほうが優位だっただろう、という声も多いですね。
”抽選の時点で優勝校は決まっている”確かどこかの監督が言っていた言葉だと
思いますが、横浜、大阪桐蔭共に抽選の時点で初戦がピークになったという感じに
なってしまいました。しかし横浜も大阪桐蔭も下級生がこれまた楽しみな選手が
多いですね。今度は甲子園の頂上決戦(決勝戦)で見たいです。
両校とも甲子園が盛り上がるためには必要なチームですよね。

関西 はこれで4季連続で勝てる試合を土壇場で落とした形となりました。
私は4季とも優勝戦線に名乗りを上げるチームとして期待しながら見ていたのですが、
勝利の女神は彼らの味方をしませんでした。
特にこの夏のチームは横浜同様、1回戦で姿を消すにはあまりにももったいなかった。
まあしかし智弁和歌山も最初の1勝まで時間がかかったことや、横浜も低迷期があったこと
を考えると、いずれはこれまでの鬱憤を一気に晴らす日がやってくることだと
期待しています。

来年春からは飛ばないボールが採用されるとのことで、これほど本塁打が飛び出すこと
はもうないでしょうね。
私は野球中継を見るとき、いつも打者からの視点でものを見ているので、
投手はよくわからないですが、打者はどうでしょうか。
投手の初球のボール球の変化球を振ってしまうと、かなり投手の有利にさせてしまうという
印象を受けましたね。特にこういう場合、次のストレートのストライクを簡単に見逃してしまうこと
が多いんですよね(前の変化球が頭にあるからか)。
また駒大苫小牧VS智弁和歌山戦で解説の方が言っていましたが、田中投手のスライダー
対策では、2ストライクに追い込まれたら見逃し三振でも良いから振るな、という作戦ですが、
これもやはり打者としては勇気がいることです。
やはり好投手攻略にはハイリスクな作戦も必要なのだと改めて感じました。
この日の田中投手は遅めのスライダーもストライクに決まっていましたから、
高速スライダーは振りにいくまで打ちごろのストレートに見えたのでしょうね。
智弁和歌山戦での田中投手の素晴らしい投球では攻略法というのは思い浮かびません。
本当にすごい投手でした。

長くなってしまいましたが、甲子園で活躍した皆さんも、ベンチに入ることのできなかった
選手の皆さんも本当にお疲れ様でした。特に3年生でベンチに入ることのできなかった
選手には特に社会に出てからがんばってもらいたいと思っています。
社会で立派に大成して、”あのときベンチに入れなかった悔しい体験があるからこそ今の
俺があるんだ”とぜひ甲子園で活躍した選手たちを見返してほしいです。

最後に 繰り返しになりますが、早稲田実のみなさん、本当におめでとう!